食品を扱うお店にとって、衛生管理は毎日の重要な仕事です。
特に、精肉店、鮮魚店、惣菜店、食品スーパー、飲食店などでは、食品の温度管理や従業員の衛生管理、設備・器具の洗浄や消毒など、さまざまな衛生管理を継続して行う必要があります。
HACCPに沿った衛生管理では、衛生管理計画を作成するだけでなく、実施状況を記録し、その記録を定期的に振り返って必要に応じて改善することが求められています。
そこで、これから重要になってくるのが「HACCPのデジタル記録」です。
目次
1 HACCPの記録はなぜ必要なのか?
HACCPでは、食品を安全に取り扱うために、次の項目のように決められた衛生管理が実際に行われていることを記録します。
・冷蔵庫、冷凍庫の温度確認
・食品の保管状態
・調理器具の洗浄、消毒
・店舗、調理場の清掃
・従業員の健康状態
・加熱、冷却などの管理
・異常が発生した場合の対応
などです。
記録を残すことで、「いつ、誰が、何を確認したのか」を後から確認できます。
また、記録を振り返ることで、衛生管理上の問題が繰り返し発生していないかを確認し、改善につなげることもできます。
つまり、HACCPの記録は単なる「証拠を残すための書類」ではありません。
食品の安全を守るためのチェックと改善のための重要な情報なのです。
2 紙の記録にはこんな問題がある
これまで小規模な店舗では、紙のチェック表を使って衛生管理を記録するケースが多くありました。
紙の記録には、簡単に始められるというメリットがあります。
しかし、その一方で、次のような問題が起きていました。
一方で、
・記入するのを忘れてしまった
・記録用紙をなくしてしまった
・過去の記録を探すのが大変
・何カ月分もあると確認するのが大変
・異常があったときの対応内容が分かりにくい
といった問題です。
特に忙しい小規模店舗では、衛生管理そのものよりも、記録作業が負担になってしまうことがあります。
こうした問題を解決する方法の一つが、デジタル記録です。
3 デジタル記録ならスマートフォンで管理できる
デジタル記録の大きなメリットは、スマートフォンやタブレットなどを使って、その場で入力できることです。
例えば、開店前に従業員が店舗の衛生状態を確認し、
・問題なし
・問題あり
などをスマートフォンから入力します。
冷蔵庫の温度を確認した場合も、その場で数値を入力できます。
紙のチェック表を探して記入するよりも、日常業務の中に組み込みやすくなります。
4 「記録する」だけでなく「異常を発見する」
デジタル化のメリットは、単に紙を電子化することだけではありません。
例えば冷蔵庫の温度を毎日記録しているとします。
通常は問題がないのに、「最近、温度が高くなっている日が増えている」ということが分かれば、冷蔵庫の故障やドアの閉め忘れなど、原因を調べるきっかけになります。
このように、
・記録する
↓
・異常を発見する
↓
・原因を調べる
↓
・改善する
↓
・再び確認する
という流れを作ることができます。
これこそがHACCPの記録を有効活用する方法です。
5 写真を活用する方法もある
デジタル記録では、文字や数値だけでなく写真を活用することもできます。
例えば、
・清掃後の調理場
・食品の保管状態
・設備の異常
・破損した器具
・異物混入などの問題
・改善後の状態
どを写真で残しておけば、状況をより分かりやすく記録できます。
特に従業員間で情報を共有するときには、文章だけよりも写真のほうが伝わりやすい場合があります。
6 従業員同士の情報共有にも役立つ
小さな店舗では、店主や責任者だけが衛生管理を担当しているとは限りません。
従業員が交代で、
・冷蔵庫の温度を確認する
・清掃する
・食品の保管状態を確認する
といった仕事を担当することもあります。
デジタル記録を利用すれば、
・誰が確認したのか
・いつ確認したのか
・問題があったのか
などを共有しやすくなります。
担当者が休みの日でも、前日の記録や対応状況を確認できます。
7厚生労働省も2026年にHACCP記録アプリを公開
HACCPのデジタル化を考えるうえで、2026年の大きな動きがあります。
厚生労働省は2026年6月5日、「HACCP衛生管理記録アプリ」を公開しました。
このアプリは、小規模な一般飲食店向けの手引書に対応し、衛生管理計画や実施記録などを入力できるものです。
厚生労働省は、小規模な飲食店などで衛生管理の記録が負担となっていることを背景に、HACCPの導入・定着を支援する目的でアプリを開発しています。
スマートフォンやタブレットで利用できるため、小規模な店舗でもデジタル記録を始めるきっかけになりそうです。
なお、このアプリは一般飲食店事業者向けです。すべての食品小売店にそのまま使えるわけではないため、自店の業種に合ったHACCPの手引書や記録方法を確認することが必要です。
8 小さな食品店は「全部デジタル化」する必要はない
デジタル化というと、「専用システムを導入しなければならない」,「高額な機器が必要なのではないか」と考える人もいるでしょう。
しかし、最初からすべてをデジタル化する必要はありません。
例えば、
例えば、
①まず紙の記録項目を整理する
↓
②特に重要な項目からデジタル化する
↓
③従業員が無理なく入力できる方法を決める
↓
④記録を定期的に確認する
↓
⑤問題があれば改善する
というように、段階的に進めることが大切です。
「デジタル化すること」そのものが目的になってしまってはいけません。
目的はあくまで、食品の安全を守り、衛生管理を継続しやすくすることです。
9 デジタル記録で注意したいこと
便利なデジタル記録にも次のような注意点があります。
①入力する人を決める
誰が記録するのかを曖昧にすると、かえって記録漏れが増えてしまいます。
・開店時の温度確認は○○さん
・閉店時の清掃確認は○○さん
など、担当を明確にします。
② 記録しただけで終わらせない
記録を残していても、誰も確認しなければHACCPの改善にはつながりません。
定期的に記録を確認して、
・問題はなかったか
・同じ異常が繰り返されていないか
・管理方法を変更したほうがよくないか
を確認します。
③ データの保存方法を確認する
使用するアプリやシステムによって、データの保存方法は異なります。
例えば、厚生労働省のHACCP衛生管理記録アプリは、入力した情報を端末内に保存する仕様で、外部サーバーへ自動送信しない設計となっています。
そのため、使用するシステムについて、
・どこにデータが保存されるのか
・端末を交換した場合はどうなるのか
・バックアップは必要なのか
などを事前に確認しておくことが大切です。
10 これからのHACCPは「記録を活用する時代」へ
HACCPでは、衛生管理計画を作り、実施し、記録し、定期的に振り返って改善することが重要です。
これまでは、「記録を残すこと」が大きな負担になっていた小規模店舗も少なくありません。
しかし、スマートフォンやタブレットなどを活用すれば、記録作業を簡単にし、さらに蓄積したデータを衛生管理の改善に利用することができます。
これからは、「HACCPの記録を残す」だけではなく、「HACCPの記録を店の衛生管理に活かす」という考え方が、ますます重要になってきます。
■ まとめ
HACCPのデジタル記録は、単に紙のチェック表をスマートフォンに置き換えるだけのものではありません。
記録 → 確認 → 異常発見 → 原因分析 → 改善
という衛生管理のサイクルを回しやすくすることに大きな意味があります。
特に人手の少ない小規模な食品店では、できるだけ簡単に、無理なく継続できる仕組みを作ることが重要です。
2026年には厚生労働省も小規模な一般飲食店向けの「HACCP衛生管理記録アプリ」を公開しました。
今後は、HACCP研修でも、「HACCPとは何か」だけでなく、「スマートフォンやタブレットを使って、実際にどう記録し、その記録をどう衛生管理の改善に活かすのか」まで学ぶことが重要になっていくのではないかと思われます。
HACCPのデジタル化は、大企業だけのものではありません。
小さな食品店こそ、無理なく続けられる衛生管理の仕組みとして、上手に活用していきたいものです。
※関連する内容として、次の記事を掲載しています。
⇒小規模な食品店がHACCPのデジタル化を始める具体的な手順/無料・低コストから始めよう!

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