「HACCPの記録をデジタル化したいけれど、専用システムは高そう……」
小規模な食品店の経営者なら、そう考える方も多いのではないでしょうか。
しかし、HACCPのデジタル化は、最初から高額なシステムを導入する必要はありません。
大切なのは、「デジタル化すること」ではなく、「衛生管理を確実に実施し、記録し、問題があれば改善できる仕組みを作ること」です。
ここでは、精肉店、鮮魚店、惣菜店、食品小売店などの小規模な食品店が、できるだけ費用をかけずにHACCPのデジタル記録を始める方法について考えてみます。
目次
1 まず確認したい「自分の店のHACCP」
最初にやることは、いきなりアプリを探すことではありません。
まず、自分の店がどのような衛生管理を行う必要があるのかを確認します。
小規模営業者については、厚生労働省が業種別の「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の手引書を公開しています。
食品の販売、食品の加工、飲食店など、それぞれの業種に応じた次の手引書があります。自分の店に近い手引書を確認することから始めましょう。最初に確認すること
◇確認項目
・自分の店はどの業種に該当するのか
・どの手引書を参考にすればよいのか
・何を衛生管理する必要があるのか
・何を記録する必要があるのか
・記録をどの程度保存する必要があるのか
ここを確認してからデジタル化を始めることが重要です。
2 現在の「紙の記録」を整理する
すでに紙のチェック表を使っている店なら、それをすぐに捨てる必要はありません。
まず現在の記録を確認します。
◇紙の記録

このような、まず「何を記録しているのか」を一覧にします。
そして、「この中で、どれをデジタル化すると楽になるのか?」を考えます。
3 最初は「一つか二つ」だけデジタル化する
いきなり全部をデジタル化する必要はありません。
小さな店では一度に全部変更すると、従業員が混乱してしまいます。
最初は、冷蔵庫・冷凍庫の温度管理など、毎日繰り返す作業から始めるのがおすすめです。
例えば、
・冷蔵庫① 4℃
・冷蔵庫② 3℃
・冷凍庫 -20℃
というように、その日の数値をスマートフォンなどから入力します。
慣れてきたら、
・清掃チェック
・衛生状態の確認
・従業員の健康チェック
・加熱・冷却管理
・異常時の対応記録
などへと広げていきます。
4 無料・低コストのツールを使う
小規模店舗が最初に検討したいのは、すでに持っているスマートフォンやパソコンを利用する方法です。
入力用のツールとしては、次のものが上げられます。
・スマートフォン
・タブレット
・パソコン
・無料または低料金の表計算ソフト
・無料のフォーム作成サービス
・HACCP対応の無料アプリ
などです。
大切なことは、「どのツールを使うか」よりも「記録が確実に残り、必要なときにいつでも確認できるか」ということです。
5 スマートフォンなどから入力できるようにする
紙のチェック表を次のようなデジタルフォームに置き換えます。
例えば次の例のようなものです。
◇冷蔵庫温度チェック
日付:9月5日
・冷蔵庫① __℃
・冷蔵庫② __℃
・冷凍庫 __℃
異常はありませんでしたか?
□ はい
□ いいえ
異常があった場合:
____________
対応内容:
____________
担当者:
______
この程度のシンプルな内容でも、毎日の記録をデジタル化できます。
ポイントは、入力項目を増やしすぎないことです。
6 「異常があった場合」の記録を重視する
HACCPのデジタル化で特に重要なのが、異常時の対応です。
例えば、「冷蔵庫の温度が基準より高かった」とします。
この場合の流れは次のようにな流れになります。
①異常を発見→②原因を確認→③必要な対応をする→④対応後に再確認→⑤結果を記録
という対応になりまます。
具体的な対応と記録は次のようになります。
・冷蔵庫の温度が8℃だった
↓
・扉の閉まりを確認
↓
・食品の状態を確認
↓
・冷蔵庫を再稼働
↓
・30分後に温度を再確認
↓
・4℃まで戻った
というように記録します。
ここでのポイントは、冷蔵庫の温度が「8℃」と記録するだけではなく、その後どう対応したのかまで残すことが重要です。
7 写真も活用する
スマートフォンを使うメリットは、写真を簡単に撮れることです。
例えば、
・冷蔵庫の温度表示
・設備の異常
・食品の保管状態
・清掃後の状態
・破損した器具
・改善後の状態
などを撮影して記録できます。
特に「異常があった場合」の記録では、写真が役立つことがあります。
ただし、写真を撮ればよいというものではありません。
「何のために撮影するのか」を明確にしておくことが大切です。
8 記録を定期的に確認する
デジタル化の最大のメリットは、記録を後から確認しやすいことです。
例えば1か月分の冷蔵庫温度を確認して、
・毎週月曜日だけ温度が高い
・午後になると温度が上がる
・特定の冷蔵庫だけ異常が多い
などの傾向が分かれば、原因を調べることができます。
「記録するだけで終わらない」ことが重要です。
HACCPでは、記録等を定期的に振り返り、必要に応じて衛生管理計画や手順書を見直すことが重要とされています。
9 従業員全員が使えるようにする
デジタル化で意外に重要なのが「人」です。
店主だけが操作できても、店主が休んだら記録できなくなってしまいます。
そのため、
「誰でも入力できる仕組み」
を作る必要があります。。
例えば、
・開店担当者 → 冷蔵庫温度を記録
・調理担当者 → 加熱・冷却を記録
・閉店担当者 → 清掃状態を記録
というように、担当を決めます。
さらに、最初に10~20分程度の簡単な操作説明を行えば、従業員も取り組みやすくなります。
10 2026年に公開された厚生労働省のアプリも確認する
2026年6月5日、厚生労働省は「HACCP衛生管理記録アプリ」を公開しました。
これは、厚生労働省が公開している小規模な一般飲食店事業者向けの手引書に対応したアプリです。
小規模飲食店で衛生管理の記録が負担となっていることを踏まえ、記録を容易にしてHACCPの導入・定着を支援する目的で公開されています。
小規模な飲食店であれば、まずこのアプリを確認してみる価値があります。
ただし、このアプリは小規模な一般飲食店向けです。
精肉店、鮮魚店、惣菜店、菓子店など、すべての食品店がそのまま利用できるとは限りません。
自店に該当する業種別手引書を確認し、それに合った記録方法を選ぶことが大切です。
11 最初から「完璧なシステム」を作らない
小規模店のデジタル化で一番避けたいのは、「最初から完璧なシステムを作ろうとすること」です。
例えば、「冷蔵庫の温度」から始めてもいいのです。
1か月程度使ってみて、「これは簡単だった」「この項目はいらない」「この項目もデジタル化したい」といった問題点を確認します。
そして少しずつ改善していきます。
12 無料・低コストで始めるなら、この順番でレベル1 紙の記録を整理する
小規模な食品店なら、次のような順番が現実的です。
・紙の記録を整理する
まず現在の記録項目を整理
↓
・スマートフォンで一部を記録
冷蔵庫温度など、簡単なものから始める
↓
・記録を電子保存
過去の記録を検索・確認しやすくします。
↓
・異常時の対応もデジタル化
「異常→対応→再確認」まで記録する
↓
・記録を分析する
温度異常や記録漏れなどの傾向を確認する
↓
・店舗の衛生管理を改善する
分析結果をもとに、設備・作業方法・従業員教育などを改善する
このように段階的に進めれば、大きな費用をかけずにHACCPのデジタル化を進めることができます。
13「デジタル化すること」が目的ではない
HACCPのデジタル化は、「紙をスマートフォンに変えること」が目的ではありません。
本当の目的は,いうまでもなく食品事故を防ぐことです。
そのために、
・計画する
↓
・実施する
↓
・記録する
↓
・確認する
↓
・問題を発見する
↓
・改善する
というこのサイクルを継続することが重要です。
■ まとめ
小規模な食品店がHACCPのデジタル化を始める場合、最初から高額なシステムを導入する必要はありません。
まずは、
①自店に合ったHACCP手引書を確認する
②現在の紙の記録を整理する
③記録項目を絞る
④スマートフォンやタブレットで一部をデジタル化する
⑤異常時の対応も記録する
⑥定期的に記録を確認する
⑦問題があれば衛生管理を改善する
という順番で進めていくことがデジタル化への早道です。
そして、2026年6月には厚生労働省から小規模な一般飲食店向けの「HACCP衛生管理記録アプリ」も公開されました。こうした公的なデジタルツールも上手に活用していきたいところです。
HACCPは、単に「記録を残すための制度」ではありません。
デジタル記録を上手に活用して、食品の安全を守り、お客様から信頼される店をつくる。
これが、小規模な食品店にとってのHACCPデジタル化の本当の目的になります。

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