まちの本屋さんが消えてゆく!/現状とこれからの取り組み

駅前や商店街にあった「まちの本屋さん」が、いつの間にか姿を消しています。かつては、学校帰りの学生が雑誌を買い、仕事帰りの会社員が新聞や新刊を手に取り、休日には家族で絵本や児童書を選ぶという日常風景がありました。
本屋さんは、単に本を販売する場所ではなく、地域の人が気軽に立ち寄る身近な存在でした。
ところが、インターネットやスマートフォンの普及、電子書籍やネット通販の拡大、少子化・人口減少などによって、出版業界を取り巻く環境は大きく変化しています。
その影響を最も強く受けているのが、地域に根付いて営業してきた「まちの本屋さん」です。
では、なぜ本屋さんは減り続けているのでしょうか。
そして、厳しい環境の中でも生き残るためには、これからどのような取り組みが必要なのでしょうか。

ここでは、「まちの本屋さん」を取り巻く現状と、これからの書店経営について考えてみます。

1 出版業界は大きく変化している

「公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所」の資料を見ると、日本の出版市場は1990年代を境に大きく変化しています。
出版物の販売額は1996年にピークを迎え、その後は長期的な減少傾向が続いています。
1996年の出版市場は約2兆6,564億円でしたが、2024年には約1兆円を少し上回る程度にまでまで減少しています。
特に落ち込みが大きいのが雑誌です。
1996年には約1兆5,633億円あった雑誌の販売額は、2024年には約4,119億円まで減少しました。
かつて本屋さんの売上を支えていた雑誌市場の縮小は、地域の小規模書店にとって大きな打撃となっています。
一方で、急速に市場を拡大しているのが電子出版で、今では5,660億円と雑誌の販売御額を上回る勢いで増えています。
スマートフォンやタブレットなどの普及により、電子書籍をいつでもどこでも読むことができるようになったのです。
特に電子コミックの成長は著しく、現在では紙のコミックを上回る市場規模となっています。
私たちの「本を読む」という行為そのものがなくなったわけではなく、

「紙の本を買って読む」というスタイルから、「スマートフォンなどで電子コンテンツを読む」というスタイルへ変化しているのです。

2 書店の数も減り続けている

出版市場の縮小と歩調を合わせるように、全国の書店数も減少しています。
2000年代初めには全国に2万店を超える書店がありましたが、その後、店舗数は大きく減少しました。
日販の「出版物販売額の実態」などの資料を見ても、書店数が現在に至るまで、長期間にわたって減り続けています。
さらに注目しなければならないのが、書店の「大型化」です。
小規模な書店が閉店する一方で、大型商業施設などに出店する大型書店やチェーン書店への集約が進んでいるのです。
「本を売る場所がなくなっている」というより、「地域の小さな本屋さんが減り、大型店やネット販売へ集約されている」ということが言えます。
また、全国の自治体の中には、書店が一軒もない地域も増えていることが話題になっています。
本を買いたいと思っても、身近な場所に本屋さんがないということが起きているのです。
こうした「書店空白地域」の増加は、単なる小売店の減少にとどまらず、地域の文化や読書環境の問題にもつながっています。

                    一般社団法人日本出版インフラセンター書店マスタ管理センター作成

3 なぜ「まちの本屋さん」はなくなっていくのか

なぜこれほどまでに地域の本屋さんが減っているのでしょうか。
その背景、要因などについて考えてみます。

(1) 読書スタイルの変化

若い世代を中心に、紙の本や雑誌を読む時間が減っていると言われています。
かつては、電車の中で新聞や雑誌を読んでいる人をよく見かけました。
しかし現在、電車の中で多くの人が見ているのはスマートフォンです。
ニュース、動画、SNS、ゲーム、検索など、スマートフォン一台でさまざまな情報や娯楽を楽しむことができます。

よく見聞きするのが、
・わざわざ本を買わなくても、ネットで調べれば分かる
・本を読む時間があれば動画を見たい
・紙の本よりスマートフォンのほうが手軽

こうした生活スタイルの変化が、紙の本や雑誌の需要に大きく影響しています。
ただし、これは「若者が本を読まなくなった」と単純に考えるだけではありません。
電子書籍や電子コミックなど、新しい形で読書を楽しむ人も増えています。
このように、紙の本を販売する「まちの本屋さん」と、消費者の読書スタイルとの間に大きな変化が起きているのです。

(2) インターネットとスマートフォンの普及

本屋さんの経営環境を大きく変えたもう一つの要因が、インターネットとネット通販の普及です。
以前なら、読みたい本を探すためには本屋さんへ行く必要がありました。
ところが現在では、スマートフォンやパソコンから書名や著者名を検索すれば、欲しい本を簡単に見つけることができます。
大手ECサイトでは、新刊から専門書、絶版本に至るまで幅広い商品を取り扱っており、早ければ翌日にも注文した本が自宅まで届けられます。
「本屋さんへ行って探す」から、「スマートフォンで探して、自宅で受け取る」という購買行動へ変わったのです。
特に雑誌は、この変化の影響を強く受けました。
ニュースや情報はインターネットでリアルタイムに入手できるため、情報誌や週刊誌などを紙で購入する必要性が以前より低くなっています。
これは、雑誌の販売に大きく依存していた小規模書店にとっては、大きな環境変化をもたらしました。

(3) 少子化と人口減少

少子化と人口減少も、地域の書店にとって大きな問題です。
人口そのものが減れば、本を購入する人の数も減っていきます。
特に地方では、若い世代が都市部へ流出することで、地域の購買人口がさらに減少することになります。
また、少子化によって学校の統廃合が進めば、教科書や教材、参考書など、これまで書店の重要な売上となっていた学校関連の需要にも影響が及ぶことになります。

地域の人口減少は、

「お客さんが減る」
    ↓
「売上が減る」
    ↓
「経営が厳しくなる」
    ↓
「閉店する」
       ↓
「さらに地域の利便性が低下する」

このような悪循環が今後も続くことになります。

(4) 利益を出しにくい経営構造

書店経営が難しい理由として、商品の特性や流通制度も上げられます。
出版物の流通には、出版社、取次会社、書店などが関わっています。
また、出版物には再販売価格維持制度が適用される商品があり、一般の商品と比べて価格設定の自由度が低いという特徴があります。
さらに、書店では委託販売によって商品を仕入れ、売れなかった商品を返品できる仕組みがあります。
これは書店にとって在庫リスクを抑えるメリットがある一方、返品や物流などに関わるコストが発生するというデメリットがあります。
さらに現在は、人件費、賃料、光熱費、物流費なども上昇しています。
売上が伸びない中でコストだけが上昇すれば、当然ながら経営は厳しくなります。
特に、商店街や駅前などで営業する小規模書店にとって、この問題は深刻です。

(5) 後継者不足

そして、もう一つ見逃せないのが「後継者問題」です。
「将来も本屋さんを続けていけるのだろうか」
経営者がそう考える状況では、子どもに店を継いでもらうことを積極的に勧めるのも難しくなります。
これは書店だけの問題ではありません。
商店街の小売店、飲食店、製造業など、全国の中小・小規模事業者が直面している事業承継問題と共通しています。
売上減少、経営環境の厳しさ、後継者不足。
これらが重なって、「閉店」という選択をせざるを得ないまちの本屋さんが増えているのです。

4 それでも「まちの本屋さん」には価値がある

まちの本屋さんには厳しい未来しかないように思えますが、次のようにネット通販にはできないことが、地域の本屋さんにはあります。
・店頭に並んだ本を偶然手に取り、思いがけない一冊と出会うことがある
・店主やスタッフに、「こんな本を探しています」と相談することができる。
・地域の子どもたちが絵本を選ぶ
・高齢者が趣味の本を探す
・学生が参考書を手に取る。

そこには、単なる「本の販売」以上の価値があります。
これからのまちの本屋さんに必要なのは、「本を売る場所」から「本を通じて人と地域をつなぐ場所」への転換なのです。

5.まちの本屋さんが生き残るための新しい取り組み

厳しい環境の中でも、経営方法を工夫し、新しい役割を担う書店が登場しています。

(1)「選書力」を売りにする

大型書店やネット通販には大量の商品があります。
しかし、品揃えが多すぎると、「結局、どの本を読めばいいの?」という問題も起こります。
そこで、小さな書店だからこそできるのが次のような「選書」です。

店主やスタッフが、
・子育てに役立つ本
・地域の歴史に関する本
・趣味を楽しむ本
・仕事に役立つ本
・高齢者におすすめの本
・子どもに読んでほしい本

など、テーマごとに本を選びます。

さらに、手書きPOPや店主のおすすめコメントを添えることで、「この人がおすすめするなら読んでみよう」という購買につながります。
品揃えの多さではなく、「選ぶ力」で勝負する。
これらは小さな本屋さんだからこそできる方法です。

(2)「滞在できる本屋」にする

本を買うだけの場所ではなく、次のように「過ごせる場所」にする方法があります。
・カフェを併設する
・店内に椅子やベンチを置く
・読書スペースを設ける
・読書会を開催する
・作家や専門家を招いたトークイベントを開催する
・子ども向けの読み聞かせを行う

「本を買いに来る場所」から、「本をきっかけに人が集まる場所」へ変えていくのです。

(3) 本以外の商品も扱う

本だけで十分な利益を確保することが難しいのであれば、次のような関連商品を取り扱う方法があります。
・文房具
・雑貨
・絵本関連商品
・知育玩具
・地域の特産品
・オリジナル商品

「本屋さんだから本だけ」という発想から離れることも必要です。

(4) 地域の文化拠点になる

まちの本屋さんには、地域の文化拠点としての次のような役割も期待できます。
・学校との連携
・図書館との連携
・自治体の読書推進事業への参加
・子ども向け読書イベント
・高齢者向け講座
・地域の歴史を紹介する展示
・地元作家の作品紹介

こうした活動によって、本屋さんが地域住民にとって「なくてはならない場所」になれば、単純な価格競争から離れることができます。

(5) 特定の顧客層に絞り込む

すべての人を対象にするのではなく、次のような特定の顧客層に絞る方法もあります。
子育て世代向けの本屋さん
 絵本、児童書、育児書、知育玩具などを充実させ、親子で楽しめるイベントを開催します。
学習・資格専門の本屋さん
 参考書、資格試験、ビジネス関連の書籍などに特化します。
シニア向けの本屋さん
 大活字本、健康、趣味、旅行、歴史などの商品を充実させます。

「何でも売っている本屋」ではなく、「○○なら、この本屋さん」という存在になることです。

(6)「棚貸し本屋」という新しいスタイル

最近では、店内の棚を区画ごとに貸し出す「棚貸し本屋」というスタイルも見られます。
棚を借りた人が「棚主」となり、自分が選んだ本や自費出版の本、古本などを並べて販売します。
書店側は棚の利用料という固定収入を得ることができ、棚主にとっては自分の好きな本を通じて情報発信や交流ができます。
単純に「本を仕入れて売る」という従来型の書店経営とは異なる、新しいビジネスモデルです。

(7) デジタルを活用する

デジタル化がまちの本屋さんの減少に影響しているのは事実です。
しかし、次のようにデジタルを活用することも大切なことです。
・LINE公式アカウントで新刊情報を発信
・SNSで店主のおすすめ本を紹介
・オンラインで本の予約を受け付ける
・店頭在庫をホームページで紹介する
・イベント情報をSNSで発信する
・地域限定の情報を発信する

「ネット通販に負けない」のではなく、「ネットを使って地域のお客さんを実店舗へ呼び込む」
という発想です。

6「本の配達」という地域密着サービス

「本の配達」というまちの本屋さんだからこそできるサービスもあります。
高齢者など、近くの本屋さんがなくなって困っている人にとって、本を自宅まで届けてもらえるサービスは大きなメリットになります。
電話やLINEなどで注文を受け、「この本を届けてほしい」という要望に応える。
このサービスは、単なる配達ではありません。
お客さんとの接点をつくり、顔の見える関係を維持することにもつながります。
地域密着型の書店だからこそできるサービスと言えるでしょう。

7 これからの「まちの本屋さん」に求められるもの

これからの本屋さんは、単純に「本を並べて販売する」だけでは、厳しい時代になっていくでしょう。
・ネット通販には品揃えで勝てない
・電子書籍には手軽さで勝てない
・大型書店には売場面積で勝てない

だからこそ、小さな本屋さんは次のような「便利さ」以外の価値を提供する必要があります。
・「この店に来れば、自分に合った本を選んでもらえる」
・「店主と本について話ができる」
・「地域の人と交流できる」
・「子どもが本に触れることができる」
・「知らなかった一冊と出会える」

こうした価値は、ネット通販だけでは簡単に置き換えることができません。

8 まとめ

出版市場の縮小、雑誌の衰退、電子書籍の普及、ネット通販、人口減少、後継者不足等々。
「まちの本屋さん」を取り巻く環境は、決して楽観できるものではありません。
実際、私たちの身近な駅前や商店街から、昔から営業していた本屋さんが一軒、また一軒と姿を消しています。
かつて電車の中で新聞や雑誌を広げていた人たちも、今ではスマートフォンを見ています。
しかし、それでも本を読む人がいなくなったわけではありません。
電子書籍や電子コミックの市場が拡大していることからも分かるように、人々の「知りたい」「読みたい」という気持ちそのものがなくなったわけではないのです。
変わったのは、「本との出会い方」です。
だからこそ、これからのまちの本屋さんには、新しい役割が求められています。
本を販売するだけではなく、
本との出会いをつくる。
人と人をつなぐ。
地域の文化を発信する。
子どもたちが本に触れる場所をつくる。
そして、地域の人が「この店がなくなったら困る」と思える存在になる。
これからの「まちの本屋さん」は、単なる小売店ではなく、地域の文化と交流を支えるコミュニティ拠点として生まれ変わることが、生き残るための一つの道ではないでしょうか。
ネットやスマートフォンがどれだけ進化しても、人が本を手に取り、ページをめくり、思いがけない一冊と出会う喜びまでなくなることはありません。
「まちの本屋さん」が地域から消えてしまわないためにも、これまでとは違った発想で、その価値をもう一度見直すことが必要なのではないでしょうか。

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