歳末の買い物客はどこへ行ったのか?/地元で人気の食品スーパーはお客さんが激減!

正月に備えて、暮れの29日と30日にいつも行っている近所の食品スーパーに買い物に出かけました。
驚いたことに去年までの歳末の混雑は嘘のように空いているではありませんか
去年までは時間帯によっては入場制限がかかり寒風吹きすさぶ中で待たされることもあったのですが、今年は普通の土日並みの人出です。
駐車場に配置されたガードマンも手持無沙汰です。

どうしたことなのか

この兆候は秋の初めころからありました。
いつも土曜日の昼前に行きますが、日を追ってレジの行列が短くなっていったのです。

この食品スーパーはかねてから“新鮮で安くて物がよい!”と評判を呼び、「激混み!」「激安!」で地元のみならず隣接する他県からもお客さんが集まるほどの名の知れた店舗なのにどうしたことなのか。

そこには、何もしなくてもお客さんは来るという旧態然とした店の経営感覚が見て取れます。

この食品スーパーのお客さんが減り始めた要因がどこにあるのか探ってみました。

なぜお客さんが減り始めたのか

この店は昨年の秋の初めころから目立ってお客さんが減り始めました。

ひところのあまりにもひどい混雑に嫌気がさして他所の店にお客さんが移ったという側面があるかもしれないが、それ以外に次の要因があるように思われます。

➊ 新しい競争相手が多数進出

この食品スーパーは人口規模8万8千人足らず足らずの地方都市にあります。

とは言っても平成の町村合併により大きくなった市で、それまでは人口3万人足らずの田舎町田舎町で今でも市の中心部は限られており、合併前の集落が点在しているという典型的な合併地方市町です。
そこに後継者がいなくなった農家の田畑を狙い撃ちして大型スーパーが進出してきたのです。

住民の足は自家用車に頼るしかなく、新たに進出したスーパーや他の量販店は大きな駐車場を完備しています。
そして後発の店は、既存の店の裏をかくように新しい経営戦略で臨んできています。
それは、価格であり、品ぞろえはもとよりキャッシュレス、ポイント還元、、セルフレジなどの新手のサービスを付け加えてきています。

➋ 「新鮮で安くて物がよい」は強みではなくなった

この店の近くにJAの直売所があります。
ここは、モノにもよりますが、契約農家が出す野菜がとびきりの値段で新鮮なのです。
これが「地産地消」の強みです。
よく知っているお客さんは、商品に貼ってある出品者の名前で指名買いをするのです。
物価高でキャベツがひと玉500円を超える今、他の“新鮮で安くて物がよい”店に群がるのは自然の成り行きです。

あの食品スーパーの「新鮮で安くて物がよい」の絶対的な強みがなくなったのです。

❸ 新しいサービスがない

この頃ではどこのスーパーでもカードややスマホ決済が当たり前になり、それに伴ってポイント還元などお客さんの囲いこみを行うためのサービスを導入しています。
ところが、この食品スーパーはこのようなサービスは一切行っておらず現金払いを貫いています。

➍ 広告・宣伝を一切行わない

新しく進出してきたスーパーなどでは連日広告を出してきており、新聞の折り込みには色とりどりのチラシが何枚もはさまってきています。
この店の広告やチラシの類はこれまで一度も目にしたことはありません。

他店では「御用聞き・宅配サービス」を導入

車を運転できない高齢者にとって、1時間に1本あるかないかのバスに乗って町のスーパーまで買い物に出かけるのは1日仕事になります。
こんな時に頼りになるのが「御用聞きと宅配」のサービスです。
昔から移動販売というのがあり、これはこれで便利なものでしたが、本当に欲しいものが買えるかというとそうでもありません。
ところがこの「御用聞きと宅配」では、事前に欲しいものをリストにして電話やFAXで前日にお店側に知らせておくのです。そうするとお店側は翌日に家まで届けてくれるのです。
対象の品物は食料品だけではなく、日用品もいいそうです。
お米など重いものやかさばる物の配達はお年寄りにとってはとっても助かります。
JAの直売所や一部のスーパーではこのような地域の高齢者などに寄り添ったサービスを相当前から行っています。

❻ 物価高が影響

2%を超える物価上昇が続き、特に食品関係の値上がりはすさまじく、キャベツ一球500円を超える値段に驚くばかりです。
金利がほぼゼロで目減りするばかり預金にため息をついている一般庶民、特に高齢者にとっては少しでも安い店へと思うのは無理からぬことです。
今の時代はどの家にも車があります。少々遠くても家庭の主婦はチラシを見比べながら少しでも安い店へと殺到します。
この食品スーパーではかっての「激安店」の売りは影を潜め、他店並みの値段がつけられていることが多くなり、モノによっては他店よりも高くなっているものも見受けられるようになりました。
さすがの「激安店」も長引く物価高に抗しきれなくなってきたのでしょう。

◆ これからどうなるのか

現在、この町には近辺を含めて12か所の大規模、中規模のスーパーや量販店があります。
この町の人口は2005年の9万4千人をピークに減少に転じ、現在では8万8千人と6千人減少し増加に転じる見込みはありません。合わせて高齢化率が急速に進みつつあります。
人口8万8千人の地方都市にとって、競合するこの店舗数は経営者側からみたときお互いに経営が成り立つ適正な店舗数なのかどうか。

消費者にとっては選択肢が多くて便利だという声もありますが、果たして乱立しているスーパーや量販店がいつまで正常な状態で経営してゆけるのか気がかりです。

古くからなじんできているこの食品スーパーが苦戦するのを見るのは忍びないのですが、消費者は「同じ価格なら品質の良いものを、同じ品質なら価格の安いものを」そして「買いやすい店」に流れるのは自然の流れです。

かってこの地域の食料品販売を半ば独占してきたこの食品スーパーですが、宣伝はしない、チラシは撒かない、ポイント還元もカード決済もしないといった旧態然とした経営スタイルは余計なものに経費をかけず、その分、いいものを安く提供していく、分かる人にはわかるというポリシーに基づいているのだと思いますが、移ろいやすい消費者の気持ちをどのような方法でつなぎとめるのか、新規の顧客をどれだけ呼び込めるかなど課題の克服が目前に迫っているのではないかと感じます。