今、「まちの本屋さん」がすごいスピードでなくなっています。
書店のない自治体が1/4に達したとか、今は書店数は全国で8000店くらいでピーク時の3分の1に減ったなど、まちの書店の行く末を不安視する声が多く聞こえてきます。
出版業界そのものの販売額も1996年がピークでそれ以降右肩下がりで減り続け、ピーク時の半分以下にまで落ち込んでいます。
そして期を同じくして出現してきたのが電子書籍と呼ばれるいわゆる電子出版物で、2014年から順調に売り上げを伸ばしてきています。
さらにこれに追い打ちをかけるようにAmazonなどのネットショップによる書籍の販売です。
このような声を聞くと、足げく通っている近所の本屋さんがそのうちになくなるのではないかと一層不安にかられます。
その一方で、一部の本屋さんでは生き残りをかけた新しい経営方法を見出したところもあり、懸命に模索を続けています。
ここでは、
・書店業界の現状
・書店新しい取り組み
などについてまとめました。
目次
1 出版業界の現状
出版業界の過去と現状について公益社団法人 全国出版協会出版科学研究所の調査資料によりますと、
出版業界は1996年までは順調に売り上げを伸ばしてきたが、翌年には前年を下回り、1996年までは上り坂一辺倒で来ましたが、以降今日に至るまで一度も上昇することなく、下降の一途をたどることとなり、その減少率はピーク時の42%まで落ち込んでいます。
(1996年 26,564億円 → 2022年 11,292億円)
特に雑誌類の落ち込みは大きくピーク時の31%にまで減少しています。
(1996年 15,633億円 → 2022年 4,795億円)
代わって台頭してきたのがインターネット、スマホなどの携帯端末の本格普及に伴ってデジタルコンテンツのパッケージ販売やインターネット配信などによる電子出版です。
2014年から本格的に配信が始まり2022年には約4.4倍の伸びを見せています。
(2014年 1,144億円 → 2022年5,013億円)
特に「電子コミック」と呼ばれる主にスマホで読むことができる電子マンガの伸びが著しく、紙ベースのコミックを完全に凌駕しています。
出典『出版指標 年報 2023年版』
出典『出版指標 年報 2023年版』
2 書店数の推移
日販の「出版物販売額の実態」から書店数の推移をみてゆきます。
出版物の減少と軌を一にして書店数も右肩下がりに減少の一途を辿っています。
日販の「出版物販売額の実態」によりますと、2006年から2022年の16年間で全国の書店数が約44%6,400店舗減少しています。
さらに、2011年ごろから店舗の減少率比べて店舗の坪数が著しく減少していることが見てとれます。
これは店舗の集約化と大型化が進んでいることを示しています。
日販の「出版物販売額の実態」
2 なぜまちの書店がなくなってゆくのか
(1) 若い世代に活字離れが進行
ネット世代と言われる若い世代はほとんど本を読みません。
かっては若い世代からの需要が大きかった雑誌は次々と廃刊や休刊に追い込まれています。
ある調査によるとなぜ本を読まないかとの問いかけに対して
・活字を追うのは苦痛
・時間がもったいない
・楽しくない
・ネットで調べれば何でもわかる
本開いて活字を追うのは学生時代の延長の様で苦痛しかなく、本読む時間があったらネット動画やネットゲームをやった方がよく、本読まなくてもたいがいのことはネットで調べればわかるということで、本を読むという行為は決して楽しいものではなく、そんな時間がもったいないということのようです。
(2) インターネットと携帯端末の急速な普及
書店の数が減り始めた1996年からインターネット技術の進化とそのあとに続くスマホなどの携帯端末の普及に伴う書籍のネット通販、デジタルコンテンツや情報のネット配信などによる電子出版です。
今や誰もが肌身離さず持っているスマホで必要な情報は居ながらにして得られる時代です。
特に情報誌などを始めとする雑誌類はこの波に飲み込まれて壊滅状態で、雑誌の収益に頼っていた駅前や商店街にあった雑誌販売を中心とした「まちの本屋さん」が急速に姿を消しています。書籍のネット通販の伸びは顕著で、Amazon、楽天など大手のECサイトでは、新刊ものを含めてほしい本が必ず見つかり、クリック一つで翌日には手元に届く時代です。多くの人々はこれに慣れてしまっているのです。
(3) 少子化と人口減少
いま、日本はすごい勢いで少子化が進んでいます。また、2050年には東京都以外のすべての都道府県で人口が減少し、1億400万人程度になり、今より2200万人も人口が減少する予測があります。
また、国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」では、 2056年に人口が1億人を下回ると伝えています。
少子化と人口減少の影響は前述の若者の活字離れとインターネットの浸透とあいまって、相対的に読書人口の減につながり、特に地方の書店に大きな打撃を与えています。
さらに少子化により小中学校の統合が進み、学校が減ることにより図書室に納入する本が急激に減少したり、これまで安定した売り上げを上げてきた教科書や参考書についても少子化による学校数の減少は書店業界に大きな影響を及ぼすことになります。
(4) 店を継ぐ後継者がいない
出版業界のお金の流れは、著者→出版社→取次→書店という流れになります。
書店は粗利が最低でも30%は必要と言われていますが、売り上げの約8割を出版社や取次会社に支払う必要があり粗利益は2割程度が大半です。
この粗利益から従業員の給料、家賃、その他諸々の経費を差し引いた営業利益は他の小売業に比べて決して大きいとは言えません。
本は再販制度(委託販売)に守られて、売れなくても取次経由で出版社に返品をすることができます。
本屋さんはどんどん本を仕入れて売れなければ返品すればいいと思いがちですが、これらのデータは出版社や取次店に把握されているので、あまりにも返品が多くなると新刊ものや売れ筋の本をまわしてくれなくなることも考えられます。
このように先行きがあまり明るくなく本を売る仕事に魅力や将来の可能性が乏しいくなる一方のまちの本屋さんの状況ですが、現代の店主が代々守ってきたお店を子息等に積極的に継がせることをためらうことについてはやむを得ないことと言えます。
これらが、まちから本屋さんが消えてゆく大きな一因になっており、他の多くの中小・零細企業が直面している事業承継の課題と同じことです。
3 書店経営の新しい取り組み
厳しい経営が続いている書店経営ですが、このような中でもいろいろ模索しながら新しい経営方法を編み出している書店があります。
(1) 棚貸し本屋
本屋さんの店内の棚を区分けして貸し出し、本を売りたい人は店主に利用料を払い、1区画の「棚主」となり、好きな作家の小説、自費出版本など新刊、古本を問わず思い思いの本を並べるて売るというスタイルです。
店主としては、毎月決まった固定収入が入ることになり、自分の店の本の売れ行きを気にすることがなくなり気が楽になるということです。
一方、棚主さんは棚の本を通じて地域の人がふれあう場を提供できればとの思いで、利益よりも発信や交流を主な目的としているとのことです。(2024/5/11 毎日新聞より)
(2) 経営の多角化と新たなサービス
・ブックカフェ
カフェと本屋さんが合体した場所のことでコーヒーを飲みながら店内の本棚に並ぶ本を自由に手に取り読むことができ、気にいった本はカフェのレジで精算できたりするなど、利用客の利便性が図られています。(「TSUTAYA」など)
・ベビー、キッズと気兼ねなく入れる店
購入前の書籍を併設のカフェでゆっくり楽しむことができるほか、知育玩具や絵本なども取り揃えており、親子で一緒に楽しむことができるスペースも確保、
読み聞かせなど親子で参加できるイベントを随時行い、階下の子供用品売場も含めた親子連れの回遊を促すことができるとしています。(「有隣堂」)
・書店内にコンビニ
ローソンは、2015年から全国の約1000店舗で専用の書籍棚を設けるなど、書籍の取り扱いを始め、販売を開始しました。
導入している書籍販売専用の商品棚では、小説文庫や雑学文庫、ビジネス書、料理・健康の実用書など、人気ジャンルの書籍を用意しています。
(3) 専門家の書評による本を宣伝
書籍の専門家(インフルエンサー)に様々なジャンルの本の書評を依頼し、書評とともにその本を陳列棚にポップで掲示し紹介します。
こうすることにより、学生から一般の人まで普段は手に取られないような本も売れるようになり、店の集客に貢献しています。
(4) お客さんからのリクエストに応える
店に来てくれたお客さんに自分の好きなジャンルの本をリクエストし、店主がその人の好みに合わせた本を何冊か取り揃え、リクエストに応えます。
お客さんとしては、ほしくてもなかなか見つからない本が手に入る喜びがあります。
(5) 本の配達
ほしい本があってもこれまであった近くの本屋さんがなくなって定期的に読んでいた雑誌や読みたい本が手に入らないと嘆く読書好きの方が多くおられます。
このような人たちのために連絡さえいただければ配達しますというサービスです。
このことにより、お客さんとの接点ができ、これが口コミなどで広がり新たな集客へと結びつく可能性があります。
4 まとめ
最近では通勤の電車の中で本を拡げている人を見ることがめっきり少なくなりました。また、以前は満員電車の中では遠慮がちに新聞を四つ折りにして読んでいる人をよく見かけたものですが、これもほとんど見かけません。
みんな一心にスマホに見入っているのです。
これだけみても読書人口が減ったことを実感します。
今、家の中で身の回りを見渡してもめぼしい本はありません。かってのように本に囲まれた生活では主な知識はまず本からという習慣は完全になくなりました。
世の中のデジタル化の波は紙による活字文化を駆逐し、PC、スマホやタブレットなどによる電子書籍などにとって代わろうとしています。
駅前や商店街のまちの本屋さんはいつの間にかなくなり、チェーン店や大手の書店への集約化が進む中、最近「TSUTAYA」が過去最高の売上げを記録したとの報は、若者の活字離れは進んでも、潜在的な読書層は一定数いることを再認識した点で明るいニュースです。
まちの本屋さんは新しい出会いの場とその地域の文化の発信元であるとともに、賑わいを創出する役目も担っています。
根強い読書ファンの要望を叶えるため、「まちの本屋さん」これからも様々な工夫を凝らしながら続けていってほしいものです。
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