小切手、手形が廃止になる/2027年度から

政府は2026年度末までに紙の手形・小切手の廃止および全面的な電子化の方針を示しました。これに伴い、各金融機関では電子化に向けた取り組みが進められています。

紙の手形・小切手の廃止の背景や今後の対策等について説明します。

1 背景

 全国銀行協会の案内チラシ ⇒ 2026年の手形の利用廃止・小切手の全面電子化へ

これまで紙の手形・小切手は企業間取引において広く利用されてきましたが、ビジネスでさまざまなツールがデジタル化していく時代において、紙媒体という現物を用いて商取引を行うことによる次のデメリットが浮き彫りになってきました。

小切手・手形のデメリット
 ・現金が手元に入るまでの期間が長い
 ・支払期限前に現金化する際の割引料が高い
 ・振り出しなどの事務手続きが煩雑
 ・郵送料や印紙税がかかる
 ・紛失や盗難のリスクがある
 ・手作業での確認や処理が不可欠である
 ・電子決済と比べて非効率

これを受けて、2021年に全国銀行協会が廃止に向けた自主行動計画を策定し、政府の成長戦略実行計画において全面的な電子化に向けた方針が示され、今後は政府・全国銀行協会・金融業界が一体となり、紙の手形・小切手を廃止すると共に、電子化を推進し、金融システム全体の効率化が図り、より迅速で安全な取引環境を整備して行こうというものです。

2 紙の手形・小切手廃止による事業者へのメリット

 紙の手形・小切手が廃止されることで、上述のデメリットが解消され、コスト削減や紛失・盗難のリスクが減少するなどの次のメリットがあります。

紙の手形・小切手廃止による事業者・企業へのメリット
 ・管理や押印、郵送などの負担やコストを減らせる
 ・紛失や盗難のリスクを抑えられる
 ・受取側の資金繰りに対する負担を解消できる

紙の手形は支払いに使用するにあたって、現金化できるまで3~4ヶ月かかるため、受取側の資金繰りに対する負担が大きいという問題点があります

3 手形・小切手廃止で事業者・企業が対応すべきこと

手形・小切手廃止の一環として、事業者には以下のような対応が求められています。

・下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。
・手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストに
 ついて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と
 下請事業者で十分協議して決定すること。
・当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化にかかる割引料等の
 コストについて具体的に検討できるように、親事業者は、支払期日に現金により支払う場合
 の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の
 現金化にかかる割引料等のコストを示すこと。

4 紙の手形・小切手の代替として推奨される電子記録債権 「でんさい」

(1)「でんさい」とは 

 ⇒ 電子記録債権とは

「でんさい」とは、株式会社全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)が提供する電子記録債権のことです。
債権の発生・譲渡を電子債権記録機関の記録原簿に電子記録することを要件としており、すべての手続きをオンライン上で行うことができます。
約束手形のように支払期日に現金を受け取れる債権が、電子データ上で管理されているものと考えるとわかりやすいでしょう。

◆「でんさい」のメリット
電子記録債権は紙の手形と異なり、紛失や盗難のリスクがありません。
一方で、債権譲渡や割引といった手形取引特有の使い方をすることもできます。
さらにすべての対応をデジタル上で完結できるため、金融機関や取引先企業とのやり取 りもスムーズです。
システム上に取引履歴も残るため、必要に応じてデータ活用することもできます。

◯支払い側のメリット
電子記録債権の手続きはすべてオンラインで完結するため手形を郵送する必要がありません。
そのため、紙の約束手形を使用する際に発生していた手形用紙代、印紙税、郵送料、及び管理にかかる人件費などの経費が削減できます。
また、電子記録債権では支払期日に自動で入金処理が行われるため管理業務も不要となり、より効率的な対応ができるようになります。

◯受取側のメリット
電子記録債権では期日になると自動的に口座に入金されるため銀行窓口へ行く必要がありません。
また、電子記録債権は印紙税が課税されないため、コスト削減の面でも効果が期待されています。

◆「でんさい」を利用するには
でんさいを利用するためには、取り扱い金融機関に利用申込を行います。

申込後、企業には9桁の利用者番号が付与されます。
この利用者番号は、でんさいを使った取引で支払先や取引先を特定する際に必要な情報となります。
実際の支払手続きは、原則として各社の口座間の送金決済で行われます。
でんさいネットでは、支払期日に自動的に送金が行われ、決済完了後に、システム上に支払等記録が残ることによって、会計処理や社内管理にも有用なデータとして活用できます。

(2)小切手廃止による代替手段

① 小切手から銀行振込(インターネットバンキング)への移行
インターネットバンキングは、銀行が提供するインターネットを利用した金融取引サービスです。
パソコンやスマートフォンからもアクセス可能で、銀行の営業時間に関係なく、いつでもどこでも振込や残高照会、入出金管理を行うことができます。

参考 ⇒ インターネットバンキングとは(SMBC)

インターネットバンキングのメリット
約束手形と同様、紙の小切手を利用した支払いでは、受取人が現金化のために金融機関の窓口へ行かなければなりませんでしたが、インターネットバンキングではその必要がありません。
また、インターネットバンキングを利用することで、紛失や盗難のリスクを防ぐことが可能です。
振込手数料が発生する場合もありますが、同一金融機関内での振込であれば無料、もしく は低コストで済むケースもあります。
今後、さらに多くの企業がキャッシュレス化を推進し、インターネットバンキングの活用が進むことが予想されます。
これにより取引のデジタル化と業務効率の向上が期待されています。

② 銀行振込(口座振替)
銀行振込(口座振替)は、小切手の代替手段として最も一般的で、すでに多くの企業や個人が日常的に利用している方法です。
銀行振込のメリットは、新たなシステムを特別に導入する必要がなく、比較的スムーズに切り替えが可能な点です。

③ 電子記録債権(でんさい)
支払期日を設定して後日に資金を移動させる仕組みですが、紙ではなくインターネット上の電子記録として管理されます。
支払期日に自動で資金移動が行われるため、銀行に持ち込んで現金化する必要もありません。
導入するには金融機関に申し込み、審査を通過すればオンライン上ですぐに利用可能になります。

④ クレジットカード決済
クレジットカード決済の仕組みは、購入者(支払う側)がクレジットカード会社に支払いを依頼し、クレジットカード会社が代金を立て替えて支払う仕組みです。実際の引き落としは後日行われるため、購入者側の資金繰りに余裕が生まれるというメリットがあります。

⑤ デビットカード決済
デビットカード決済は、決済を行った瞬間に銀行口座から支払金額が引き落とされる仕組みです。

⑥ 電子マネー決済(プリペイド型・QRコード型など)
電子マネー決済は、スマートフォンやICカードなどを利用し、事前にチャージした資金を使って支払いを行う仕組みの決済方法で、小額の取引に適しています。

◆ 取引先への事前周知
新たな決済手段への移行には、取引先の理解と協力が不可欠です。自社で選定した代替手段について取引先へ丁寧に説明し、小切手廃止のスケジュールや、今後どのように支払いを進めるかを早期に伝えrことが必要です。

5 まとめ

紙の手形や小切手は、現金化するまでの手間や盗難・紛失などのリスクを伴うことから、政府だけでなく、手形・小切手の発行に直接関わる金融機関などもこれらのデメリットを解消するために2026年度末を目途の廃止に向けて積極的に動いています。

まちの小売店などにおいても、2026年度末からのスムーズな移行が行えるよう、これまでの取引先などに対し、丁寧な説明を行い支払いなどに対するトラブルが起きないよう備えておくことが必要です。