個人事業主など小規模事業者の事業承継をスムーズに進めるには

まちの小売店の廃業の声をよく聞くようになりました。
それにつれて、各地の商店街にかっての賑わいが途絶え、空き店舗がめっきり多くなってきています。
コロナ禍に加え、大型量販店、スーパーの進出、かてて加えてネットショップの台頭など、消費者の買物動向が大きく変化しているのです。

経営不振に加え、まちの小売店など個人事業主や小規模事業者にとって、もう一つの深刻な問題を抱えています。
後継者難による廃業です。

後継者難のため廃業に至る形態は大きく分けて二つあります。

■ 引継ぎのための準備ができていなかった
後継者を見つけるあるいは育てることができなかった

多くの商店街に空き店舗が点在している原因の大半がこの二つのケースです。後継者に事業を引き継ぐいわゆる「事業承継」の重要性は、小さな町工場などの零細企業や中小企業を対象として語られることが多いのですが、まちの小売店にとっても同様なのです。

個人事業主であれ法人であれ、自分の代で廃業しない限りどなたにもいつかは事業引継ぎは訪れます。

ここでは、多くのまちの小売店などが直面している事業承継についてその課題と解決策などについて探ってゆきます。

1 事業承継で何を引き継ぐのか

事業承継で一体何を引き継ぐのか、簡単に整理してみます。

①事業や店の経営権
②財産(株式、事業用資産、資金等)
③従業員
④技術、ノウハウ、経営理念等

これらの他に負の資産というべき
 ・負債
 ・解決が必要な問題等

なども含めて、現状の経営一切合切引き継ぐことになります。

その他に中小企業やまちの小売店などは、顧客が好感を持って接していた店の魅力・個性なども壊すことなく引き継ぐ必用があります。

2 引き継ぎの形

事業を引き継ぎが必要になったとき、誰にどのような形で引き継ぐのかが重要なテーマになります。

 引継ぎ先は大きく分けて次の三つになります。

・子息等親族
・親族以外の役員、従業員
・第三者(M&A)

それぞれの形についてその内容と課題等についてみてゆきます。

(1) 子息等親族への引継ぎ

まちの小売店など小規模事業者にとってはこの形が最も簡単で望ましい形になります。
なぜならば親として早い段階から子息の経営者としての資質を見抜き、早い段階から経営者としての教育を行うことができるからです。

ただし、子息は子供の時から親の苦労を身近で見てきていることなどから、別の道を進むことを前提として人生を歩み始めることが多く、大手企業に就職したり、本人の好きな道に進むことが多くなっています。
かって30年以上前には、中小企業など小規模事業者の親族への引継ぎは9割以上を占めていましたが現在では半数近くに激減しています。
現在のまちの小売店など小規模事業者の経営状況では親といえども無理やり引き継げとは言えなくなっています。
商店街のまちの小売店の廃業の大部分がこれにあたります。

(2) 親族以外の役員、従業員への引き継ぎ

従業員の中から経営者としての資質を備えた者を後継者として選びます。
長年自店に勤め、店主の片腕として店の経営方法などを理解しているものであれば後継者として最適な候補者になります。

ただし、従業員承継には次の店について注意が必要です。

◆先代経営者の方針をそのまま踏襲しすぎることがある。
長年、先代の店主に仕えてきただけに、そのままの経営方針を貫いてゆけばいいと考えがちで、自店を取り巻く周辺の商業環境、顧客、商業全般の変化などに柔軟に対応できない場合があります。
後継者は、これらのことに気を配り、変えなければならないことは先代の経営方針に固執しない心配りが必要になります。

(3) 第三者(M&A)による承継

個人事業主や小規模事業者のM&Aは、最近では支援機関が増えたことにより、経験のない経営者でも実施しやすくなり、特に個人で新たなビジネスを起業したい人など取引金額が1,000万以下の小規模M&Aも増える傾向にあります。

ただし、個人や小規模事業者のM&Aは、相手の選択の他に基本的な取引条件交渉、買い手側への情報提供、契約書の締結、資産や権利の移転、対価の支払いなど経験のないものにとってはこれらをクリアーするには非常にハードルが高いものです。
できればM&Aを熟知している専門家の力を借りたほうが安全でスムーズに進めることができるでしょう。

3 スムーズに引き継ぐには

事業承継をスムーズに進め、引継ぎに失敗しないためのポイントをいくつか挙げます。

(1) 早い時期から準備する

事業承継には、後継者の選定や後継者の育成・教育、業務の引継ぎなどでおおよそ10年は必要と考えたほうがいいでしょう。
その中でも後継者の選定が最も重要でかつ難しいものになりがちです。
個人事業主や小規模事業者で早くから子息など親族への引き継ぎを決めていて、了承を得ている場合はともかく、拒否されている場合は従業員への引継ぎなど他の方法を考えなければなりません。
さらに、引き継ぎ者への経営者としての教育を施す必要もあります。
現経営者自身が事業承継の意志を固めて、「いつ、だれに、どのような形」で引き継ぐかを決めて遅くとも60歳を超えてあたりから準備して置くことが必要です。

(2) 早めに相談する

個人事業主や小規模事業主の経営者にとって、事業承継の意志はあっても

 ・後継者にふさわしい人が見つからない
 ・後継者はいるが、何から手を付けたらいいかわからない
 ・後継者をどのように教育すればいいかわからない 
 ・将来、後継者にかかってくる相続税や贈与税が心配だ
など初めてのことで何から手を付けていいのかわからず、いたずらに時間だけが過ぎ、事業承継のタイミングをのがしている経営者を多く見受けます。

このような時の相談先として、

 ・顧問の公認会計士
 ・税理士
 ・取引金融機関
 ・公的支援機関

があります。

大切なことは、事業承継の意志があるのなら、一人で悩まず、まずはこのような相談機関に早めに相談することが重要です。

◆事業承継のための公的相談機関

事業承継で悩む経営者などが相談できる様々な相談窓口として、各都道府県には「事業承継・引継ぎ支援センター」が設置されています。

「事業承継・引継ぎ支援センター」では、相談経営者へのヒアリングや調査を通じて、個々の事業承継の課題や経営課題などの洗い出しや解決のためのお手伝いをし、相談者の円滑な事業承継のための支援を行っています。

当センターは、事業承継について次のような支援を行っています。
 ・事業承継・引継ぎ(親族内・第三者)に関する相談
 ・事業承継診断による事業承継・引継ぎに向けた課題の抽出
 ・事業承継を進めるための事業承継計画の策定
 ・事業引継ぎにおける譲受・譲渡企業を見つけるためのマッチング支援
 ・経営者保証解除に向けた専門家支援 など

事業承継でお悩みの経営者の方はぜひ一度訪ねてみてください。

4 まとめ

事業承継は、事業を行っている以上どなたも避けることができないものです。
自身の代で廃業するならともかく、次の代に引き継ぐ意思があるのなら、できるだけスムーズに引継ぎたいものです。
そのためには、自身の年齢を考えあわせ、早い時期から
・後継者候補の選定
・自社、自店の経営状況の現状把握と将来の見通し
などをまず行う必要があります。
独りよがりな判断は、そののちの事業承継の進捗に大きな障害になり、取り返しのつかない事態を招くもとにもなりかねません。
また、行動が遅すぎると何かあった時のリカバリーが難しくなり、先に進めなくなる恐れもあります。
とにもかくにも事業承継は特に早い時期から関係関連機関などとの協議、相談をくり返し、的確なアドバイスを受け、迅速に行動に移すことが事業承継をスムーズに進めるためにとにもかくにも必要なことです。