あるまちの洋品店のご主人の話|かっての顧客に寄り添った商いを

あるまちの洋品店のご主人の話です。

先代の後を継いで30有余年。

バブルの頃までは、年末や季節の変わり目などはお客さんは引きも切らず、アルバイトまで雇っていたそうです。特に年末などには深夜まで働き詰めだったそうです。

この店は、かっては商店街であった一角にありますが、今では商店街とは名ばかりで、空き店舗にはどこから来たのかも分からない飲食店に変わってしまっています。

商店街そのものは、今では大した活動もしていないのに、それでも毎月会費だけは徴収に来るとぼやいています。

この店もご他聞にもれず、商店街の衰退とともに客足は遠のき、ここに店があるから毎日開けているという風情が漂っています。

しかし、いろいろ話を聞いて中で、心に残る話がありました。

それは、先代の時代、贔屓にしてくれていたお客さんを決しておろそかにしていないということ、お年寄りを大変大事にしているということです。

その時のお得意さんは今ではご高齢の方々ばかりです。

このような方々は息子夫婦や孫たちに、自分の身のまわりの品々や、まして下着類などを買ってきて欲しいなどとはとても頼めないのです。その気持ちはすごくよくわかります。

この店のご主人は、外に出歩くことがめっきり少なくなったこのようなお年寄りのために、電話やあるいはたまには先方に出向いて、ほしいものを訊いて回るのだそうです。そして注文があれば、たとえ靴下1足でも配達して回っているそうです。

そして、たまに店に来られたときには何時間でも話し相手になっているのだそうです。

その根底には、この人たちのおかげで今日があるという感謝の念とお年寄りを敬うという二つの気持ちの現れなのです。

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今、世の中はすごい勢いで超高齢化社会が進んできています。

”お年寄りを敬いましょう!”とか”お年寄りを大事にしなければ!”などと掛け声は昔からありますが、実際はどうでしょうか。

町内会や自治会では、組織ぐるみで独居老人の見廻り隊などを組織して安否の確認などを行っています。

この店のご主人は、図らずもこの見廻隊の役目を担っていると言えます。

今後、商店街は昔の「御用聞き」を復活させて、この見廻り隊の役目も担ってゆけばどうでしょうか。

また、これからは商店街はお年寄りがコミュニケーションを図ることができる場所を提供することも地域の中核としての役割ではないかと思います。